「とても関係があるんですよ。あなたにはわからないんですか。ニョロニョロたちは、しゃべることもきくこともできないし、目だってよく見えないんです。ところが、感じるのだけはすばらしく敏感なんです。ひとつ、柱をまえうしろにゆすぶってごらんなさい。やつらは地面のうごきでそれを感じて、きっとこわがりますよ。おなかにびんびんこたえてさ。あいつらは、無線装置そっくりですものね。」
トーベ・ヤンソン『たのしいムーミン一家』山室静 訳 講談社
フィンランドにあって日本で見かけない食べ物がある。フィンランドのスーパーマーケットでは乳製品の冷蔵棚に出向けば必ず見つけることができる、その発酵食品と出会ったのは、フィンランドを初めて訪れたときのことだった。
ヘルシンキのスーパーマーケットで、ホテルの自室での翌日の朝食用にと、ヨーグルトのつもりで買い求めたそれを最初に口にした瞬間、出会ったことのない食感にうろたえた。容器に刻印された賞味期限の日付をおもわず確認してしまった。
出会い方は悪かったが、話してみると印象が良くなり、後に親友となる友達のように、ぷるぷるとした口当たりと木工用ボンドのような粘っこさが病みつきになり、フィンランドにいた数年間、ヨーグルトを口にすることはほとんどなく、その食品、viiliばかりを食べていた。
生産方法や成分のどこがヨーグルトと違うのかわからない。ただ、viiliと雷(ukkonen)の関係について、KarjaaのLärkkulla stiftelsenで知り合った、フィンランド人のおしゃべり好きな老婦人から興味深い話を聞いたことがある。
あなたたちviiliが好きなのね、嬉しい、わたしも大好き。ところで雷が多いときviiliはうまく発酵しないのよ、知ってた? その昔、viiliを生産する農家では、雷がゴロゴロと鳴り出すと、大急ぎでviiliたちを雷の音の届かない特別の部屋に避難させて、雷から守ってあげたそうなの、viiliは雷が怖いのね、きっと。雷を怖がる猫みたいですね。ところであなたはどうですか、雷は平気ですか、と僕。怖いわ、彼女は真顔で答えた。
フィンランドを離れてから、日本でviiliが食べられないのをずっと残念に思っていたのだが、最近、自家製の玄米乳酸菌でつくった豆乳ヨーグルトが、どういうわけか粘り具合、ぷるぷるとした食感がまさにviili風のものになっていた。
それ以来、微調整しながら数回試してみたが、ときどき出来栄えが違う。一昨日のものは、やや粘りが弱かった。素材は同じなのに微妙に違う。
ひょっとしたら、ヨーグルトを作っていたあの時に雷が鳴ったことと関係があるのかもしれない。空気中のイオン濃度の塩梅によるものだろうか。「雷の多い年は豊作」ということが昔から言われているようだが、そういうこととも関係があるのだろうか。
本当のところ、viiliと雷の関係はぼくにはよくわからない。でも再びviiliというか、viili風ヨーグルトが偶然にせよ、我が家の朝食のテーブルに供されることになったのは喜ばしい。
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