#043 フリッツ・ライバー「バケツ一杯の空気」、世界終末後のラブストーリー

短篇小説
Snowing night, Joulukuu Finland 2003
Snowing night, Joulukuu Finland 2003

世界の終末後を描くポスト・アポカリプスものといったら、真っ先に思い浮かぶのがこの短篇小説だ。

だしぬけにあらわれた暗黒星が太陽から地球を奪い、太陽系の限界集落まで連れ去ってしまう。天変地異と絶対零度に迫る超低温化が地球を襲う。

宇宙のきまぐれな天体運動による人類の断捨離天然グレートリセットで人類はほぼ全滅。唯一生き残ったのが、主役の一家のみ、かどうか。

カタストロフィの顛末を物語る「パパ」と耳を傾ける「ぼく」とをアブラハムとイサクに重ね、創世記のパスティーシュとして、あるいは未来の創世記として読むのは誤読過ぎだろうか。

筋書云々はともかく、10才の「ぼく」に淡い恋心が芽生えるところがおもしろい。「ぼく」が真っ暗な地表で一人、凍った空気をバケツ一杯にして運んでいるとき、誰もいるはずのない闇の奥に「きれいな若い女の人」をチラッと見た、ような気になる。

最後の一文に思わずニヤリとなった。なんというおませさん! その後の一族の繁栄が予感される。状況はまったく違うが、年上の女性に想いを寄せるところが、レイ・ブラッドベリの「ある恋の物語」に似ている。

 I guess he’s right. You think the beautiful young lady will wait for me till I grow up? I’ll be twenty in only ten years.

Fritz Leiber, “A Pail of Air” (Galaxy Science Fiction, December 1951)

残念なことに、サンリオSF文庫のこの本は絶版になって久しい。ハヤカワあたりから復刊してくれないだろうか。こんな面白い短篇集を絶版にしておくのはもったいない。

初出はギャラクシー(Galaxy Science Fiction, 1951)。ED ALEXANDERによるオリジナルのイラストが素晴らしい。こういうタッチ、最近は見かけない。

寒々とした光景にフィンランドの冬の夜を思い出す。読後、お天道様が拝めるだけでもありがたい、という気分になるかもしれない。世界終末系の傑作としてだけではなく、ボーイ・ミーツ・年上女性もの、として読んでも面白い。

じつぷり
じつぷり

最後の一文は、Galaxy誌の初出オリジナル(1951)と深町眞理子訳とでかなり違っている。サンリオSF文庫版(1979)は、Ballantine Books (1964) から翻訳されたもののようだ。SFマガジン(1968)に掲載されたのもこちらかもしれない。

Illustrated by ED ALEXANDER

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