
星新一のいわゆるショートショートもの。メビウスの帯型に属する物語。都会から離れた小さな社で発見された「穴」が、「原子炉のカス」、「都会の汚物」、「引き取り手のない浮浪者の死体」や「かつての恋人ととった写真」などの、人間の欲望やエゴが生み出したゴミを始末してくれる。現代の多欲追求社会をユーモラスに、しかし痛烈に批判している。
穴は、捨てたいものは、なんでも引き受けてくれた。穴は、都会の汚れを洗い流してくれ、海や空が以前にくらべて、いくらか澄んできたように見えた。
星新一「おーい でてこーい」(『ボッコちゃん』所収)新潮文庫
その空をめざして、新しいビルが、つぎつぎと作られていった。
不要品は捨ててスッキリというのは、どこかファシズムにつながっているようで気持ちが悪い。欲望全開社会は最後には、人間の手に負えないゴミをどうするかという矛盾につきあたる。その最悪の解決方法が、ファシズムなのではないかと思うと恐ろしくなる。最近、どうも日本の海や空が澄んできているように思えるのだが、気のせいだろうか。
安部公房の長編小説『方舟さくら丸』でも、「核シェルター」に何でも流せる水洗トイレがあったのを思い出した。
イギリスのStreetwise Operaというチャリティで「おーい でてこーい」を原作としたショートフィルムが上映されたようだ。タイトルは、Hey! Come on Out! (Film by Iain Finlay)。星新一が提示する視点は時空を超越している。

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