猫の肉球は、パソコンのキーボードとかリモコンのボタンを正確に打つようにはできていない。だから間違いもおこるし、飼い主にとっては不都合だ。その類のものは猫から遠ざけなければならない。これが実はなかなか難しい問題なのだ。
フィリップ・K・ディック(PKD)の 「猫と宇宙船」は、「旅の無聊を慰めるために同乗している」ノーマンという名前の猫が、宇宙船の操縦装置のボタンを肉球で押してしまったことで、スケジュールに遅れが生じてしまう、というところから話が始まる。
Norman the cat floated majestically by the control module, reached out a paw, and jabbed at random; two activated buttons sounded faint bleeps and the ship altered course.
Philip K. Dick, “The alien mind” (1981, Yuba City High Times, a high school newspaper. 1981, F&SF)
猫のノーマンが悠揚迫らざる態度で操縦装置のそばを漂い、前足をのばしたかと思うと、でたらめにボタンを叩いた。押しこまれた二個のボタンがかすかなビープ音を奏で、船はまた針路を変えた。
フィリップ・K・ディック「猫と宇宙船」大森望 訳(『変数人間』所収)ハヤカワ文庫
PKDは大の猫好きで、実際に似たようなこと、例えばタイプライターのキーを飼っていた猫がでたらめに押してしまい、原稿に意味不明の文字が混入した、なんてことがあったんじゃないだろうか。
ところで、結末部分の食事についてはPKD自身の実体験に基づくものかもしれない。ぼくはまだだが、猫好きなら、いつかは試してみるべきだろうか。
「自動操縦と猫」は、車の自動操縦が実用化したとき(猫好きにとっては特に)切実な問題になるだろうという、PKD晩年の予見的掌篇。
車の運転中に猫が運転席に入り込むスティーヴン・キングの猫ものと比べてみるのも面白いかもしれない。
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