KarōshiとAvantouinti

Hanko Finland 2003
Hanko Finland 2003

日本では働きすぎで死んでしまう人がいるって聞いたけど、本当なの?
留学先のフィンランドで受講していた英語クラスで、先生のEricaさんが、ロシア人、リトアニア人、ウクライナ人、中国人そしてフィンランド人などの多国籍な学生の中で唯一の日本人であるぼくに矛先を向けた。

Karōshiっていうんでしょ。アホくさ、それってジョーク?」と軽く笑っていた。みんなも「マジか、ありえんわ」などとあきれていた。「日本では深刻な社会問題になっていて、残念ながらジョークではないんですよ。ナンセンスだと思いますが」と答えた。

Karōshiといっても突然死であったり自殺の場合もある。どちらにしても、社会的圧力が個人を押しつぶすという点で同じだ。それが国家権力によるものならわかりやすいが、現代日本では、周りの雰囲気や空気といった、あいまいで透明な力がじりじりと個人を追い詰めているように思える。同調圧力というやつだ。フィンランドでも人口比での自殺率は高いが、身体的に深刻な病気が理由である場合が多いらしい。

旧ソ連では、働かずにブラブラしているだけで逮捕される「徒食の罪」というものがあったらしい。有罪になると(だいたい有罪になる)、社会全体にとって有害な寄生者とみなされ、シベリアなどの僻地で強制労働させられた。

1987年にノーベル文学賞を受賞したロシアの詩人ヨシフ・ブロツキイは、20代の頃にこの罪で有罪となり、「アルハンゲリスク(大天使の町)」に流されている。マルセル・デュシャンも ソ連に生まれていたら、シベリアあたりに流罪になっていただろう。

I would have wanted to work, but deep down I’m enormously lazy. I like living, breathing, better than working.

Pierre Cabanne, “Dialogues with Marcel Duchamp” (translated from the French by Ron Padgett)

仕事をしたいと思っていたのかもしれませんが、私には途方もない怠惰が根底にあるのです。働くことよりも生きること、呼吸することの方が好きなのです。

マルセル・デュシャン『デュシャンは語る』岩佐鉄男・小林康夫 訳 ちくま学芸文庫

ヘルシンキにあるアラビアのファクトリーショップでアルバイトをしていたスコットランド人が、「日本の某社から出向(あるいは研修?)している日本人社員が、夕方5時前には仕事が終わってしまい、定時後に何をしたらいいのかわからなくて途方に暮れてる」と笑っていた。せっかくフィンランドにいるのにもったいない。

Ericaさんが冬に行っているストレス解消法を紹介してくれた。湖の氷に人が入るぐらいの大きさの穴を開けておき、そこにどっぷりと浸かるというものだ。Avantouintiといってフィンランドではポピュラーな健康法だ。

Ericaさんは授業後、近くの湖でAvantouintiをするのを日課にしていた。血行が良くなり体がポカポカして、どんよりした気分もリフレッシュされるらしい。お金も手間もかからないからと勧めてくれたのはいいが、考えただけで心臓がバクバクしてしまう。

ところで、Ericaさんとそんなことを話していた前の年に、ぼくの従兄弟が過労によるノイローゼから自殺をしてしまった。歳は少しはなれていたが、近所に住んでいて小さな頃からよく遊んでくれた、兄のような存在だった。フィンランドに来て一緒にAvantouintiでもやって、ブラブラできたらよかったのにと思う。

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