ヘルシンキに吸い込まれてしまった帽子

Helsinki Finland 2006
Helsinki Finland 2006

ヘルシンキにいた頃に帽子をなくしてしまったことがある。犬印鞄製作所の帆布製の茶色っぽい色の帽子で、つばにひらがなでうちの奥さんの名前が刺繍してあった。その日(2006年のたしか5月ごろ)、たまたま、でもときどきそうするように、その彼女の帽子をぼくが被って二人で出かけていた。

ORIONで映画を観て、そのあとkaivopuistoの岩場でゴロゴロと寝転んで休息していたとき、帽子がなくなっているのに気がついた。ORIONに忘れてきたのか、ひょっとしたら途中で乗ったトラムの中かもしれない。それとも、歩いているときに、道端でポトリと落としてしまったのだろうか。

翌日、ORIONとヘルシンキ交通局(HKL)に問い合わせをしたけれど、結局でてこなかった。うちの奥さんに謝ると、意外とあっさり許してくれた。彼女もよく物をなくすし、まあお互い気をつけようということになったが、フィンランドにいた3年間のあいだ愛用していた帽子だったので、悪かったなと思う。

でも、実際のところ帽子はどこにいってしまったのだろう。ほんとうにフッと消えてしまった。ひょっとしたら、あのkaivopuistoの岩場の隙間に吸い込まれて消えてしまったのかもしれない。そう思うと、あのとき岩と岩の隙間をもっとよく探せばよかったなと、今でも少し心残りだ。

おまえの帽子
なくなってから、もう
二〇年
一九六五年
一月一日

リチャード・プローティガン「タコマの亡霊の子供ら」藤本和子 訳(『芝生の復讐』所収)新潮文庫
Richard Brautigan, “The Ghost Children of Tacoma”

そう言えば、『ピクニックatハンギング・ロック』という美少女の生徒や若くて美人の女教師が不気味な岩場で消えてしまう、とても怖い映画があったけれど、kaivopuistoの岩場も、不思議な雰囲気をかもしだしていた。人が消えてしまうというようなことはたぶんないと思うが、kaivopuistoでは岩と岩の隙間にうっかり物を吸い取られないように注意する必要がある。

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