2003年にフィンランドのタンペレを訪れた際、タンペレ市立美術館において開催されていた、アラーキーこと荒木経惟の写真展を偶然観ることができた。
女体緊縛もの、枯れかかった花弁、飼い猫のチロちゃんなど、アラーキーのエロスとタナトス満載の写真展だった。ヌード作品には、墨消しが入っていなかったので、日本の展覧会では基本的に御法度になっている部分が露わになっていた。
個人的には墨消しがあったほうが、情感があって好みだ。でもやっぱり、フィンランドの乾いた空気には墨消しは似合わないかもしれない。どちらにしても、日本ではなかなか観られないものをフィンランドで観ることができてよかった。
ところで、後日、展覧会を観たという何人かのフィランド人に感想を訊く機会があったが、アラーキーの緊縛写真にはほとんどが否定的だった。
特に、20代の若い人たちは、男女に関係なく、女性蔑視としか捉えていなかったようだ。なかには流暢な英語でジェンダー論を展開する人もいたが、ぼくの英語力と興味がついていけなかった。
ただ一人50代の男性が、「緊縛された女性の肉体は縛られているけれど、表情は艷やかだし、内面的なものが開放されているようで美しいと感じた」というような、わりと好意的な感想を述べてくれた。彼は英語が苦手だったので、フィンランド語から英語への通訳を介しての会話だったが、言わんとすることは、とてもよくわかった。
何を美しいと感じるかは、人それぞれかもしれないが、文化的、社会的コードに縛られて目が曇ってしまい、肝心の部分が見えなくなってしまう、ということもある。縛られているのは写真の中の女性ではなく、それを観ている自分自身だったりする。
アラーキーを観たあとに続いて、当時、タンペレ市立美術館内にあったムーミン美術館でトーベ・ヤンソンによるムーミンの原画展を観た。
女性の緊縛裸体が残像する網膜がフォーカスしたのは、全裸のムーミントロールや裸エプロンのムーミンママよりも、フローレンの左足首だった。全裸に片足だけ金のアンクレット。トーベ・ヤンソンは脚フェチだったのだろうか……。ムーミンも一筋縄ではいかない。
アラーキーとムーミン。それぞれ全く違う世界かもしれないが、このような組み合わせの展覧会は日本ではありえなさそうだ。フィンランドで観ることができてよかった。
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