フランスの小説家、ピエール・ガスカールの短編小説「小さな広場」を読んでいたら「膕」という漢字がでてきた。
ぼくはよく彼女の通り道で土いじりをしていたので、彼女の踵が顔すれすれに土を踏みしめたり、黒いスカートがひるがえって細い膕が見えたりした。パン屋の女房は、めったなことではいつもの通り道をそれなかった。危うくぼくを跨ぎそうにもなった。
ピエール・ガスカール「小さな広場」佐藤和生 訳 (『太陽―他 ピエール・ガスカール作品集』所収)創土社
La petite place: Pierre Gascar from Soleils
脚のどこかなんだろうけれど、実際どの部分だろうか、なんと読むのだろうか。そんなことが小説の内容とは別に気になってしょうがない。とりあえず小説を読み終え、新明解国語辞典の第五版(小型版)を引いてみると。
ひかがみ [膕] ひざの後ろの くぼんだ部分。
新明解国語辞典 第五版 三省堂
月偏と旧漢字の國を旁に書いて、ひかがみ、と読む。「小さな広場」の語り部である少年が見たものは、「危うくぼくを跨ぎそうにもなった」パン屋の女房の「ひざのうしろの、くぼんだ部分」だったのか、ということがわかってちょっとドキドキした。
発酵が進んでぷっくり膨らんだパン生地の表面、指で押すとぷにゅ、っとなるような感触が指先に蘇る。
ピエール・ガスカールは大江健三郎に影響を与えた、というようなことをどこかで読んだことがある。どんな影響なんだろう。
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