フィンランドの英国語教師

Finnair time zone 2012
Finnair time zone 2012

フィンランドの国民学校で、短期の初級者向け英語ワークショップに学生として参加したことがある。

オックスフォード大学出身で、英国の中高校生に母国語である英語を教えていた、英国人ベテラン教師を招待してのものだった。スティングのような、ちょっと枯れた渋い声が印象的な英国紳士だった。

ワークショップでは、先生の専門である時制と、使い分けのコツを教えてもらった。おかげで苦手だった時制のイメージをつかむことができた。餅は餅屋とはこのことだろうか。

あるいは、植民地支配の歴史と伝統の賜物だろうか。なんにせよ、英国人から英語を習うことのできた貴重な体験だった。

授業以上に興味深かったのは、細川隆元の時事放談のような、英国老教師によるぼやき節の雑談だった。

英国版ゆとり教育が、日常会話はともかく、基本的な読み書きが満足に出来ない英国人学生を多数生み出してしまったということを、実際に教鞭をとっていたロンドンの公立学校(セカンダリースクール)を例に語ってくれた。

それによると、特に文法力と語彙力は壊滅的で、例えば、should’veがshould ofの省略だと信じて疑わない学生が、圧倒的多数を占めていたという。should’veは、もちろんshould haveの短縮形だ。

時制についても、適切に使い分けることのできる学生は少ないらしい。英国人にとって難しいなら、日本人にとって難しいのも当然だろう。

事態をさらに悪化させたのは、英国版ゆとり教育で基礎学力が低下してしまったところへ、短期間に大量の移民が流入したことが原因だとして、英国及びEUの移民政策を強く批判していた。

国語が出来ないと他の科目の授業も成り立たない。多文化共生の美名を隠れ蓑とする新自由主義的な政策が学級崩壊をもたらしたのだ、とぼやいていた。

先生個人の体験がすべてに当てはまるとは思わないけれど、実際に教育の現場に身を置いていただけあって実感がこもっていた。

またそこには、英国にとって外貨獲得の重要な輸出サービスである英語教育産業の従事者という立場から、その品質と国際競争力が低下してしまうのではないかという保護主義的な意味合いも含まれていたのかもしれない。

あれから16年後の2020年、英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)はEUから離脱した。

英国人老教師の憂いは、過去完了形の出来事となったのか、あるいは現在完了進行形として未来に向かって続いているのか。あるいは、病膏肓に入り、時既に遅しという状況だろうか。

今となっては、日本にとっても他人事ではない。自分の国語力を棚に上げて言うのもなんだが、あの時こうすべきだった、すべきではなかったとぼやいてみても、失われた国語力はそう簡単には戻ってこない。大英帝国の凋落ぶりを気楽に聞いていたあのころが懐かしい。

日本語も時制は難しいなあ。

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