効率的な週末の買い出し

Hedelmävaaka
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ぼくと妻がお世話になっていたタンペレ郊外のKansanopistoでは、金曜日の午後になると授業はほとんどなかった。日本の土曜日のような感覚だ。

ふだん寮に住んでいる学生たちは金曜日には昼食も食べずに、いそいそと実家へ帰ってしまう。ぼくらは、帰るところもないので、わずかな居残り学生とともに、閑散とした寮で週末を過ごすのが常だった。

ある金曜日の午後のこと、そろそろ食材の買い出しにでも出かけるかなと思案していたら、写真学科の先生が「買い物に行くなら一緒に行こう。わしも買わなきゃならんものがあるんだ」と声を掛けてくれた。

その先生は、60代前半のスウェーデン系フィンランド人、グレーの髪と口髭をたくわえた体格のいい老爺だ。写真プリントの分野ではフィンランド屈指の人らしく、フィンランドのアンセル・アダムスとも呼ばれていたが、どちらかというと『アルプスの少女ハイジ』に出てくる「おじいさん」のような風貌をしていた。

気難しい職人気質の人柄で、人付き合いが悪いことでも知られていた。短期のワークショップの先生としてフィンランド南部のタンミサーリ(Ekenäs)から教えに来ていて、教員用の宿泊コテージに滞在していた。

ぼくたちは先生の愛車VOLVOのワゴンに同乗させてもらい、車で15分ぐらいのところにあるYlöjärviという小さな町に向かった。町についてまず立ち寄ったのは、Apteekkiだった。先生は、上着のポケットから処方箋を取り出し、ぼくたちを車に残して、Apteekkiに入っていった。

しばらくして出てくると、あちこち具合が悪くてね、といった顔つきで薬の袋をどさっと車に放り込むと、隣の建物のバーに吸い込まれていった。すぐに車に戻ってくると、手にした半ダースの瓶ビールパックを助手席のシートにグワシャと置き、「効率的だろ」と、ニヤリと笑った。

「じゃあ、スーパーマーケットに行こうか。おっと、その前に寄るところがある」と、すぐ近くのR-kioskiで御愛用の赤いマールボロを1カートン調達し、おもむろにスーパーマーケットに向かった。

スーパーマーケットでは、ぼくたちがRuisleipä、Hernekeitto Viili 、果物などの週末用食材をこまごまと買い込む一方で、先生はFazerin Sininenと小魚のフライを1パック手にしていた。「これはMuikku だ。君たちは日本人だから魚を食べるだろう、食べたことがないのなら試してみなさい」といって、少し分けてくれた。

結局、そのとき先生が買っていたのは、薬、ビール、煙草、チョコレート、小魚のフライ。これだけで週末を過ごすつもりなのか。どういう体をしているんだろう。栄養学のえの字も知らんのかこのおっさんはと、ある意味感心してしまった。

Muikkuのフライは醤油を掛けて食べた。なかなかいける。それ以来、フィンランドでの週末ご飯のおかずとして、あるいはビールのおつまみとしてぼくたちの定番メニューに加わった。

あれから10年以上過ぎたが、先生とはいまだにメールやクリスマスカードのやり取りをしている。それなりに元気そうだ。ビールでも煙草でもなんでも好きなものをのんでいいから、とにかく元気で長生きしてほしいと思う。

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