#046 サキ「話上手」| Saki, “The Story-Teller”

Templecombe on Apple Maps 2023
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ある暑い日の午後、イングランド南部のテンプルコウムに向かう列車内で、叔母に連れられた小さな女の子二人と男の子一人に、たまたま同席した独身男がお話を語って聞かせる。

「むかしむかしあるところに」と男が話し始めると、面白い話に飢えた子供たちは男の語りに食いつき、騒々しかった車内はしばしの間、静かになる。

“Was she pretty?” asked the bigger of the small girls.
“Not as pretty as any of you,” said the bachelor, “but she was horribly good.”

Saki, “The Story-Teller”, (Beasts and Super-Beasts, 1914)

「その子、きれい?」と大きい方の女の子がたずねた。
「あなたほどきれいじゃない」と独身男は云った。「でも、とんでもないよい子だったのです。」

サキ「話上手」中村能三 訳(『サキ短篇集』所収)新潮文庫

カリントンの小説では女中のマリイがハイエナに食べられるが、男の語る話ではバアサという名の「とんでもないよい子」が狼に……。

“an extra good child”とか、”horribly good”という言葉使いに「よい子」、というより「よい子を求める大人」を揶揄する態度があからさまに現れている。

子供はグロい話が大好物だ(実は大人も)、ということを熟知したサキお得意の人を食った話。毒の含有量は多めだ。

小さい方の女の子が退屈しのぎに歌う《On the Road to Mandalay》は、ラドヤード・キップリングの詩「マンダレー」(1890)を元にした歌だ。後にフランク・シナトラが歌ってヒットするが(アルバム Come Fly with Me, 1958)、もちろんここでは時期的にシナトラではなく、おそらくFrank Croxtonが歌うバージョンではないかと思われる。

キップリングをここに持ってくるサキの含意は、わかるようでわからない。

じつぷり
じつぷり

和爾桃子訳の『けだものと超けだもの』(白水Uブックス 挿絵:エドワード・ゴーリー)にも入っている……


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