leipä(レイパ)とruisleipä(ルイスレイパ)
フィンランドでは身近だが、日本ではあまり見かけないと感じているものにライ麦パンがある。フィンランド語ではパンのことをleipä(レイパ)、ライ麦パンのことはruisleipä(ルイスレイパ)という。
K-market や S-market などのスーパーの棚には、毎回違う種類を買っても間に合わないぐらい、多種多様なレイパを見ることができる。
メーカーもいろいろで、チョコレートで有名なFazerからも多くのレイパが出ている。Vaasan (バーサンと呼んでいた)のRuispalat や、メーカーは覚えていないが、ライ麦含有量の高い、真っ黒なルイスレイパが好きだった。ヘルシンキのパン屋Avikainenの手作りのルイスレイパは格別美味しかった。
フィンランドではポピュラーなライ麦パン(ルイスレイパ)だが、日本では、それなりに名の通ったパン屋でも真っ黒なライ麦パンはあまり見かけない。
ライ麦パンは独特の酸味のある風味があって、腹持ちの良さがかえって重く感じられるところが、癖あるパンとして日本では万人受けはしないのかもしれない。もっとも僕は食いしん坊だけれども、怠け者でもあるので、わざわざ美味しいパンを探して歩きまわることはしないし、今までもライ麦パンに遭遇していたのにうっかりと気が付かなかっただけなのかもしれない。
邂逅 ルイスレイパ(ライ麦パン)
ところが最近、嬉しい事に美味しいライ麦パンを作っているパン屋を発見してしまったのだ。愛知県犬山市にある「天然酵母パン 芒種 bousyu」というパン屋を。僕はパン屋に入るとまず、どうせないだろうけど、と思いながら、その棚にライ麦パンがあるかどうかをチェックするのが習慣になっていたのだが、ここの店内のパン棚に小さいながらもぷっくりとしたライ麦パンを見つけたときは心が踊った。
最近はパンの事に詳しい人が増えてきて、どこどこの天然酵母がいいとか焼き方が上手だとか、いろいろとあるみたいだが、そういうことはまったくわからない。だから、あくまで個人的な好みとして、ここのパンは美味しいく、なによりも自分の身体にあっているなと思った。フィンランドで食べたルイスレイパの味を身体が覚えていてよろこんでいる。
パンに限らず、美味しくて、しかも自分の身体にあう食べ物に出会うのは、道端で偶然見かけた猫にチッチっと呼びかけたら愛想よく足元に絡みついてくるぐらい幸せなことだ。人生を豊かにしてくれる出会いと、こういうパンを作っている人に感謝したい。
二十四節気で芒種というのは六月の種まきの時期のことらしい。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のエピグラフを思い出した。
よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。
ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(ヨハネによる福音書。第十二章二十四節)原卓也訳 新潮文庫
犬山の城下町の観光地にあるお店には路面に看板が出てなくて、ちょっとわかりにくい場所にある。あえて観光客にはわからないようにしているようだ。知る人ぞ知る的なところなのかもしれない。
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