フィンランドの11月は……、特に何もない月、という印象だ。
10月の初雪なんかなかったかのように、雨がポショポショと降るし、クリスマスにはまだ日がある。暗い、寒い、でもまだ雪はない、の三拍子揃った11月は、ほとんどのフィンランド人にとって、気の滅入る月にちがいない。
11月はさっさと済ませて、ウキウキな12月(Joulukuu)に進もうぜ、とか、なくてもいいんじゃない? と陰では邪魔者扱いをされていそうな、地味で憂鬱で曖昧で記憶にも残らない退屈な月かもしれない。
でも、そんなフィンランドの11月が嫌いではなかった。もともと静かなフィンランドでも、とりわけ静かで穏やかな月だ。
また、ミドルグレーの空が美しい「あわい」の11月は、生者と死者があいまいになる「諸聖人の日(Pyhäinpäivä)」が巡ってくる神秘的な月でもある。数字の1が二つ並んでいるのも、フィンランドのデザインのようにミニマムで美しい。
11月はフィンランド語で、Marraskuuという。-kuu は「月」という意味だが、Marras-は何だろう。だれかに教わったような気がするが憶えていない。
“who’s there?” he whispered. “what time is it?”
Ray Bradbury, “Last Rites” (F&SF, December 1994)
“whenever I find myself growing grim about the mouth, whenever it is a damp, drizzly November in my soul, then I account it high time to get to sea as soon as I can,” replied the traveler at the foot of the bed, quietly.
「だれだ」老人は小さな声でたずねた。「いま何時だ」
レイ・ブラッドベリ「最後の秘跡」村上 博基訳(『瞬きよりも速く』所収)ハヤカワ文庫SF
「口のあたりが不快を覚え、胸の内にじとじとと十一月の霧雨が振りだすといつも、わたしはすこしもはやく海に出る時だと思うのだ」ベッドの足元で、旅行者はしずかに引用した。
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