つい先日、もじゃもじゃヘアーが印象的なジャン=マルク・ルイサダのCDを自宅で聴いていたら、隣の部屋にいたうち奥さんが血相を変えてすっ飛んできた。すごく聞き覚えがあるが曲名は何かとたずねるので、ショパンの《ワルツ 10番ロ短調》と答えた。
この曲が主題歌になっていたテレビドラマが、フランダースの犬のラストシーンと匹敵するほど悲しく、彼女の子供時代における二大悲劇になっているという。
調べてみると『君は海を見たか』というドラマであることが判明した。余命宣告を受けた9歳の男の子とその家族の絆を描いた人間ドラマだ。平幹二朗主演の1970年の日本テレビ版があるが、うち奥さんの歳を考えると、おそらく1982年フジテレビ版、ショーケンこと萩原健一のバージョンだろう。
ところで、《ワルツ第10番ロ短調 Op.69-2》は、ショパンが19歳の1829年に作曲されたが、お蔵入りとなり、没後の1852年に出版された。ショパンは自身の死後にこの作品が焼却されることを望んでいたとも云われている。もし燃やされていたらドラマのテーマ曲にはならなかったどころか、うちの奥さんの遠い記憶を刺激することもなかっただろう。
短調と長調が何度も転調を繰り返す。長調の部分ですら哀愁が強く感じられるほど、メランコリックな曲調が全体に漂っている。テンポはmoderato、中ぐらいの速さ、中庸な速度で。
今朝のニュースで ショーケンの訃報を知った。
彼が生きた68年間には、どのような調号と速度記号が記されていたのだろう。
朝のひととき、この曲を聴いてすごした。
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