病弱で奔馬のような想像力の持ち主である10歳の孤独なコンラディンが、従姉で保護者の口うるさい「あの女」ミセス・デ・ロップに「絶対内緒」で飼っていたもの、それはフーダン種の牝鶏と大イタチのスレドニ・ヴァシュタールだった。
“What are you keeping in that locked hutch?” she asked. “I believe it’s guinea-pigs. I’ll have them all cleared away.”
Saki, “Sredni Vashtar” (The Chronicles of Clovis, 1912)
「あの錠つきの箱に何を飼ってるの? おおかたモルモットだろう。きれいさっぱり処分してしまうからね」
サキ「スレドニ・ヴァシュタール」和爾桃子 訳(『クローヴィス物語』所収)白水Uブックス
まずフーダン種の牝鶏が処分され、とうとうスレドニ・ヴァシュタールの木箱に「あの女」の捜査のメスが入ることになる。
コンラディンはスレドニ・ヴァシュタールを神として崇め、盗んだナツメグの粉末を使って秘儀を捧げるなどして日々を送っていたが、「あの女」に感づかれてしまった。
コンラディンの願いとは? その願いは成就したのだろうか? 「あの女」ミセス・デ・ロップの身に何かが起こったようだが。
コンラディンがバタをたっぷりつけてトーストを味わうシーンに、思わずにんまりとなった。
And while the maid went to summon her mistress to tea, Conradin fished a toasting-fork out of the sideboard drawer and proceeded to toast himself a piece of bread.
Saki, Ibid.
小間使が、お茶を知らせに、庭園へ下りていったあと、コンラディンは食器棚の引出しから、パン焼きフォークを取り出して、トーストを焼きはじめた。焼きおわると、バタをたっぷり付けて、ゆっくりと味わった。
同上 宇野利泰 訳(『怪奇小説傑作集2 英米編Ⅱ』所収)創元推理文庫
普段から「口うるさい女性」に対して、僅かでも抵抗や復讐を試みたいと思っている男性におすすめ。
サキは短編の名手といわれている。単に短いだけでなく、文字になっていない「間」というのか、語りと語りえない世界の間を読む楽しさがあると思う。
「スレドニ・ヴァシュタール」の翻訳は、創元推理文庫『怪奇小説傑作集2』所収の宇野利泰訳、白水Uブックス『クローヴィス物語』(挿絵:エドワード・ゴーリー)所収の和爾桃子などがある。
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