パパは庭のぶらんこにこしかけて、鼻ばかりかんでは、たばこがひどくまずいとこぼしました。そうして、ムーミンママが、小さなかごにいれてもってきたハンカチを、しばふじゅういっぱいにちらかしました。
トーベ・ヤンソン 作・絵『ムーミンパパの思い出』小野寺百合子 訳 講談社青い鳥文庫
フィンランドと日本のちょっとした違いが気になるときがある。たとえば、日本ではよく鼻をすすっているのを見かけるが、フィンランドではほとんど見たことがない。
日本では、特に春先になると、いたるところで鼻をすする音が聞こえる。高い音域と子音を多用した各種の唱法によって紡ぎ出される不協和音が耳に心地悪い。
地下鉄のプラットフォームなどの音響空間では、音像が立体的になり解像感も高く、細かな内声部も聞き取れてしまうほどだ。
フィンランドでは、たとえば授業中に ハンカチをポケットから取り出して、人目もはばからずにブーと鼻をかむ。フィンランドでも春先はネコヤナギや白樺の花粉が飛び、あちこちからくしゃみと鼻をかむ音が聞こえてくる。フィンランドの人に直接確認したわけではないが、人前で鼻をかむよりも、すするほうがマナーに反するのかもしれない。
「はく」と「吸う」の仕草が異なるのだろうか。どちらが良い悪いではなく、フィンランドで感化され、すするかわりに鼻をかむようになった。ハンカチをあてて人前でブーッとクレッシェンドをきかせて鼻をかんでみると、グズグズした気分が吹っ切れて清々しい気分になる。
というわけで、カバンにはいつも数枚のハンカチが入っている。どうせなら、気に入ったハンカチを使いたい。マリメッコのハギレや近所の布地屋で見つけたムーミン柄の生地で、うちの奥さんに裁縫してもらう。おかげで思う存分鼻をかむことができる。
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