「真珠湾を忘れるな!」と彼らはいった。
リチャード・プローティガン「タコマの亡霊の子供ら」藤本和子 訳(『芝生の復讐』所収)新潮文庫
「忘れてたまるか!」とわたしたちはいった。
Richard Brautigan, “The Ghost Children of Tacoma”
「教えてほしことがあるんだけれど。なぜ日本は真珠湾を攻撃をしたの?」
12月のある朝、フィンランド語の授業が始まる前、ぼんやりと教室の扉が開くのを待っているところに、ソフィアさんがつかつかと近づいてきて、英語でぼくにそう訊ねた。
透き通った青い瞳でじっとこちらを見上げて、「戦術上まったく合理的ではない」と付け加えた。
ソフィアさんとはフィンランドの語学学校にいた頃、フィンランド語の初級クラスで一緒だった。スウェーデン人だが、フィンランド人男性と結婚し、フィンランドで暮らしていた。
ブロンドのショートヘアーが似合うファニーフェイスの人妻(30才)で、 とてもかわいい3歳男児の母でもあった。 ぼくの印象では、ガンダムのミライ・ヤシマに似ていた。
朝っぱらからロマンティックな気分ではないにせよ、突然の歴史問題に「坊やだからさ」などと軽口を言う余裕もなく、「話せば長くなるのですが」とお茶を濁すのが精一杯だった。
「なぜぼくに?」と聞き返すと、「だって、あなたは日本人でしょ」と云われた。外国にいると、日本人というだけで、その手の質問には何でも答えるべきだと思われてしまう。まあ、そいうものかもしれないが。
ソフィアさんは、ぼくの適当な受け答えにはまったく納得していない様子で、何か言いたげだったが、ちょうどそこへ先生が到着し、教室の扉を開けてくれたので、ぼくはソフィアさんから解放され、その話題はそれっきりになってしまった。
ソフィアさんのまっすぐな眼差しと、きちんと答えられなかったモヤモヤした気持ちが絡まったまま15年以上が経った。
「どうして、日本は真珠湾を攻撃したのか?」
そろそろ本当のところを知りたいものだ。
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