「ねえ、ねえ、ところで、美穂ちゃん、アイスクリーム食べる?」
田中康夫「品川区 島津山」『昔みたい』新潮文庫 所収 (『25ans』婦人画報社)
彼女は、もう一度、上目使いに私を見る。
「どこの?」
「ホブソンズの。ほら霞町の交差点に出来たでしょ。おいしいんだ、これが、また」
四月になるとヘルシンキの街のあちらこちらに、アイスクリームの移動販売のスタンドが出没する。
そして、熊のようなフィンランドの警官(POLIISI)が、アイスクリームをナメナメ、ヘルシンキの街中に出没するようになると、夏が近いんだなあと感じた。
と同時に、フィンランド滞在の最後の年には、あと少しで日本へ帰らなければいけない寂しさもあった。その頃を思い出すと、冷たくて甘いアイスクリームと寂しい気分が一緒に蘇ってくる。
ところで最近、日本では、警察官が職務中にコンビニに立ち寄ることの是非が話題になったりもしたけれど、フィンランドではそんなことは話題にすらならなかった。
もし、夏のフィンランドで、警官からアイスクリームを取り上げたら、やってらんねー、となり、治安も悪化してしまうに違いない。あるいは、逆に治安が悪すぎて、おちおちアイスクリームも食ってられねえぜ、となっても困る。
夏のフィンランドで警官が、銃や棍棒ではなく、アイスクリーム片手に歩いている姿は平和そのものだ。やっぱりアイスクリームっていいなあ。
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