「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟むねばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼めもさめるような、青宝玉サファイアと黄玉トパースの大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。
昨夜、近所の学校の天体観望会で、アルビレオを観ることができた。アルビレオを観たのは前回の観望会に続いて二回目だ。
今回のメインメニューは夏の大三角、土星、M13ヘルクレス座球状星団。
まずは、夏の大三角、ヴェガとアルタイル、デネブを見上げる。はくちょう座の尻尾にあって約一等星のデネブは、快晴の夜空に、はっきりと見ることができた。
白鳥の頭部にあるアルビレオは三等星だ。よく目を凝らしてなんとか見えたとしても、肉眼で二重星(見かけ上)を見分けるのは難しい。
観測部の学生さんが、せっかくだからと、ダークモードのスマホから繰り出すインスタント星座早見盤と、手元を照らす赤いライトを頼りに、デネブから推定1000光年以上離れていると言われるアルビレオまでひとっ飛び、苦心しながら天体望遠鏡の角度を変え、照準を合わせてくれた。
天体望遠鏡の接眼レンズを覗くと、たしかに宮沢賢治「銀河鉄道の夜」のアルビレオ観測所の、眼もさめるような、サファイアとトパースが輝いていた。
そういえば今年2023年9月21日は宮沢賢治の没後90年にあたる。その日まで数日というタイミングでアルビレオ観測所を観望できた。
その昔、宮沢賢治は望遠鏡で天体を観測していたのだろうか、あるいは書物からの知識だったのだろうか。どちらにしてもやっぱり宮沢賢治はすごいな。
小説でしか知らなかった星々を、実際に天体望遠鏡で見ることができるのはありがたい。自分のような天体観測の素人にとって貴重な体験だった。
コメント