毎週月曜日のフィンランド語の授業で、先生のMaijaさんがいつも、真っ先にぼくたちに問いかけるのは、こんな質問だった。
Mitä sinä teit viikonloppuna?
週末は何をしていましたか?
事前に考えておかなければならない、一種の宿題のようなものだ。Kotona.(家にいました)、とか、En mitään erikoista.(特別何もないです)、と適当に答えたり、どこかへ出かけていれば、Kavin Tampereen.(タンペレに行きました)となる。
毎回、同じ答えでは退屈だし、いろいろなヴァリエーションを考えなければならなかった。単純な質問のようだが、フィンランド語のいい練習になっていたと思う。
あるとき、活きたフィンランド語ではどうなのだろうと思い、友人のフィンランド人男性(60代前半)に同じ質問を投げかけてみた。
Mitä sinä teit viikonloppuna?
返ってきたのは、En muista.(覚えとらんなあ)という言葉だった。
どういうことなのか、よくのみこめなかった。週末、ずっと酔っ払っていたから何も覚えていない、という単純なことだけではない、例えるならサルミアッキのように少々の苦味と塩気が、この短い返事には含まれているような気がした。
ともあれ早速、次の月曜日の授業で、いつもの質問に、En muista.、と答えてみると、Maijaさんの明るい表情が一瞬揺らぎ、え?と真顔になった。が、すぐ大笑いしながら、典型的なフィンランドの男みたいなことを言うなんて、あなたもだんだんフィンランド人に近づいてきたわね、などと言ってくれた。
そういえば、アキ・カウリスマキの映画『過去のない男』は、過去の記憶を失くした男の話だが、せめて週末だけでも記憶を失っていなければ、やっていられないような人生を歩んでいる、フィンランドの「週末のない男」たちに、ひそやかに捧げられた作品だったのではないか、などと想像してみる。ひょっとしたらアキ・カウリスマキ自身も「週末のない男」の一人だったのかもしれない。
コメント