三月の終わりに附属病院がアルバイトを募集している。実験用に飼っていた犬150匹を処分する仕事だ。この大学の学生である「僕」と女子学生、私大生、犬殺しの四人が効率よく犬を処理していく。壁の中の、おとなしい、吠えない、尾をふる犬たちが象徴するものは……。
大江健三郎、弱冠22歳の処女作。ロアルド・ダールの「女主人」の乾いた皮膚感覚とは違った、肌にまとわりつくじっとり感がある。犬の毛皮を洗う脚気の女子学生は、女主人の直系血族のようだ。
ほら、と女子学生は屈みこんで浮腫んだふくらはぎを指の腹で押して見せた。青黒い窪みができ、それはゆっくり回復したが、もとどおりにはならなかった。
大江健三郎「奇妙な仕事」(『見るまえに跳べ』所収)新潮文庫
ところで、大江健三郎はピエール・ガスカールの影響を受けているらしいが、この小説を読み返してみて、ひょっとして二人とも脚フェチなのでは?という疑念が生じた。
奇妙で残酷で不気味な寓話好きにおすすめ。ただし、犬好きは読む前に心の準備が必要だ。
じつぷり
「私大生」という言葉遣いに含みを感じる。それにしても、当時は一見して「私大生」とわかる特徴があったのだろうか。
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