ある朝早く、布団の中でウトウトとしながら、ある友人にどうしてもというわけでもないが、なんとなく早く伝えておきたい用件を思い出した。起床後すぐ、携帯電話でテキストメッセージを送った。
その友人には自分から直接メッセージを送ることはほとんどしたことがなかったし、早朝からちょっとどうだったかなと思っていたら、すぐに返事が返ってきた。
その日に入院して、翌日の午後に摘出手術することになっている、先月会ったときに言おうと思ったが、心配をかけたらいけないと色々考えているうちに言いそびれてしまった、と書かれていた。
翌日、ぼくは彼女の手術開始時に合わせて、彼女の好きなアルバム、パット・メセニー・グループ『アメリカン・ガレージ』のレコードをターンテーブルにのせて、そっと針を落とした。
友人としてできることは何もないが、自分自身、気持ちを落ち着かせたかった。じっと座って針先が黒光りする塩化ビニールの盤面をなぞるのを見つめていた。
AB両面が終わり、続けてもう一枚レコードを棚から取り出した。パット・メセニーとライル・メイズのそのレコードに、この世のものとは思えないほどの美しい旋律の曲が入っていることを思い出したからだ。が、ふとレコードを取り出す手が止まった。
その曲は同時に、ビル・エヴァンスに対する追悼曲でもあったことを思い出したのだ。タイトルは”September Fifteenth”。ビル・エヴァンスがこの世を去ったのは42年前。ちょうど友人の手術の翌日の日付であった。
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