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#012 レオノラ・カリントン「最初の舞踏会」澁澤龍彦訳、元祖・残酷不思議ちゃん

短篇小説
東山動植物園
東山動植物園

社交界デビューが嫌でしょうがない、不思議ちゃん「あたし」。デビューの舞踏会を動物園のハイエナに代わってもらおうというアイデアを思いつく。ハイエナもそのオファーを二つ返事で引き受ける。

社交界へ出たばかりの頃、あたしはよく動物園に行ったものでした。あまりよく行くので、同じ齢頃の娘さんたちよりも動物たちの方が、あたしにとってはずっとお馴染みになっていました。毎日のように動物園通いしていたのも、じつは社交界へ出るのが嫌だったからなのです。あたしがいちばん親しくしていた動物は、一匹の若い牝のハイエナでした。彼女もあたしのことをよく覚えていてくれました。大そう利口な動物で、あたしは彼女にフランス語を教え、彼女はその代りあたしにハイエナ語を教えてくれました。こうして二人は長い楽しい時間を過ごしたものでした。

レオノラ・カリントン「最初の舞踏会」澁澤龍彦訳(『怪奇小説傑作集4 フランス編』所収)創元推理文庫 La Débutante (1978)

そして女中のマリイが犠牲になる。ハイエナに顔を剥がされて足首以外は全部食べられてしまう。可哀想だが仕方ない。「あたし」は残酷でもあるのだ。

マリイの顔の皮をかぶったハイエナが「あたし」の代わりに舞踏会へ出るが、案の定舞踏会はメチャクチャ。一方「あたし」はというと、ジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』を読んでいたりする。シュールレアリスムの画家として知られているレオノラ・カリントン自身の愛読書だったのかもしれない。

「残酷な童話のような味わいがあり、わたしのとりわけ愛する作品の一つである」と評したのは訳者の澁澤龍彦。アンドレ・ブルトンも愛した名編。


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