数年前の2月28日、大雪の午後、ヘルシンキのKaivopuisto近くにあるRobert’s Coffee Olympiaterminalenを出たところで、見知らぬおばちゃんに呼び止められた。
とても困っている様子で、落ち着きなくワーワーとまくし立てる顔つきが、ダウンジャケットのボアフードもあいまってか、毛むくじゃらの巨大シーズー犬を思わせた。
ロシア語のようにも聞こえたが、ぼくはロシア語はできないので、何を言っているのかさっぱりわからなかった。
英語とフィンランド語で話しかけてみたが、おばちゃんには全く通じていないようだった。しきりに腕時計を指差すのを見て、どうやら時間に遅れそうになっているのだな、ということだけがわかった。
雪が降り続く中、どうしたものかと立ちつくしていると、おばちゃんがいきなりしゃがみ込んだ。そして雪が積もった歩道の上に、おもむろに指で絵を描き出した。
その下手くそなドローイングが船の形に見えたので、おそらくフェリーに乗り遅れそうになっているのだと推測し、すぐ近くのSILJA LINEと、もう一つ別のフェリー乗り場のある方向を指差した。
おばちゃんは一目散にそちらの方へ走っていった。吹雪いていて視界が悪く、船着場がどこにあるのかわからなくなってしまったのかもしれない。
あのおばちゃんは無事、行くべきところにたどり着く事ができたのだろうか。あるいは、間違った方角を教えてしまったのではないだろうか。
今でも冬の日に街角でシーズー犬を見かけると、あのときのことを思い出すことがある。あれは何だったのだろう。
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