フィンランドにいた頃、どこの国のチョコレートが美味しいかという話題は、政治について語るのと同じぐらい日常茶飯事だった。強敵は、ロシア、スウェーデン、オーストリア、ベルギーあたりだが、だいたいいつもフィンランドのFazerに落ち着く。ぼくもチョコレートはFazerが一番好きだった。ところが、同級生のオクサーナからチョコレートをもらったとき、僕のFazer一極覇権が崩壊した。
オクサーナはロシア系ウクライナ人で、当時彼女は18歳ぐらいだったはず。九月の新学期に、学校の事務所近くで初めて彼女とすれ違った時、ぼくの瞳孔は全開になっていたに違いない。世の中にはこんなに可愛くて美人の女の子がいるんだ、と感心した。
年が明けて二月、オクサーナがスキー休暇中に訪れたサンクトペテルブルクの有名店で、お土産にと買ってきてくれたチョコレートが衝撃的に美味しかった。さすがエカチェリーナ2世の都、サンクトペテルブルクのチョコレートだ。品格が違う。
その後、ロシアのチョコレートを食べる機会には恵まれていない。あのチョコレートの衝撃もぼんやりとした記憶になってしまった。サンクトペテルブルクに行くことがあれば、そのチョコレート店を訪れてみようと、大切にとっておいたチョコレートのロシア語の包み紙も、どこか奥の方にしまい込んだままだ。
エルミタージュ美術館、フィンリャンツキー駅、それにチョコレート。フィンランドにいる間に、サンクトペテルブルクを訪れておけばよかった。ちなみに、自分が食べたことのあるスウェーデンのチョコレートは、甘いだけのなんとなくぼんやりした味で、あまり好みではない。
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