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本の虫

日々
令和元年11月 富山
令和元年11月 富山

稀覯本でもなく、ごく普通の本なのだけれど、できれば古本で入手したいと思っている本の私的「手配リスト」がある。すぐに見つかり、リストから消去されるものもあれば、どういうわけか、なかなか出会うことのできない難物もある。

街で古本屋を見かけると、記憶内でリストをパラパラとめくり、捜査網を張り巡らせながら、店内に足を踏みいれることになる。

先日、11月最後の土曜日、とりわけ難物の一冊がついに網に引っかかった。ほぼ四半世紀ぶりに再訪した越中の、偶然通りかかった未知の古本屋の軒下、百円均一棚の片隅に、その「お尋ね本」、アイザック・アシモフの短篇推理小説、『黒後家蜘蛛の会2』池央耿訳、創元推理文庫(1978年7月14日 初版)が、ひっそりと佇んでいた。

全部で五冊になる『黒後家蜘蛛の会』シリーズのうち、第2巻だけがどうしても見つからなかったが、これでやっと「手配リスト」の常連の一つを消し込むことができた。長年探していた本に出会えるのは嬉しくもあり、寂しくもある。ルパン三世を逮捕してしまった銭形警部のような気分だ。

でも本当は網を張って獲物を待っていたのは本の方であり、蜘蛛の巣にかかった虫は、ぼくのことなのかもしれない。本の虫というのをこういう意味に用いることは、多分できないだろうけれど。


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