フィンランドに行く前にSEIKOの電子辞書SR-T6500を購入したのは2003年のこと。
当時販売されていた多種多様な電子辞書の中からSR-T6500を選んだのは、ペーパーバック版で愛用していた、Collins Cobuild English Dictionary for Advanced Learnersの第三版が収録された唯一の機種だったからだ。
コリンズの特徴であるフルセンテンスによる語彙の定義と例文は、最初はとっつきにくいところがあったが、一旦慣れてしまうと離れ難いものがある。
フィンランドでは、語学学校のFCEとCPEをターゲットにしたクラスで、毎回鬼のように大量に出される宿題を片付けるのに重宝した。
特に、複数の単語の組み合わせで例文検索できる機能なくして、動詞と前置詞や語彙と語彙のつながりが問われる課題なんかを熟すことはできなかった。
2008年には劣化した液晶パネル部分を、セイコーインスツルで費用3,000円ぐらいで修理交換してもらった。
去年ぐらいから再び液晶パネルに不安感があったので、早めに修理をと思ったら、時すでに遅し、SEIKOは2018年に電子辞書事業から撤退していた。
SR-T6500はフィンランドでの三年間を一緒に過ごした頼もしい相棒のような存在だ。情が移ってしまったので簡単には手放せない。
アルミ筐体のいたるところに細かなスクラッチや塗装の剥がれ、小さな凹みがある。もう少し丁寧に扱っておけばよかったと後悔して、フェリーニの映画『道』のラストシーンのザンパノのような気持ちになることがある。だからいつしかこのSR-T6500を「ジェルソミーナ」と呼ぶようになった。
物理キーボードのキータッチは静かでクリック感が心地よい。少し遅れるレスポンスには愛嬌がある。A6より一回り小さいが、内ポケットにいつも、というにはやや嵩張る。
重量を計ったら単4電池2本を含めて207グラムだった。ちなみにペーパーバック版は1,602グラム。その差約1.4キログラムは大きい。
英語辞書はインターネットはもちろん、最近ではスマホやタブレット用のアプリもある。今となってはかえって貴重な単機能・最軽量のコリンズ英英辞典としてできるだけ長く使っていきたい。
十年後、ペーパーバック版とどちらが手元に残っているだろうか。あるいは自分のほうが先にお陀仏しているかもしれないが。
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