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正文館書店で『吸血鬼は夜恋をする』に遭遇

日々
正文館書店 本店
正文館書店 本店

本好きの知人から、名古屋の東片端にある正文館書店本店が、六月で閉店し取り壊しされると聞き、日曜の午後遅く、うちの奥さんと連れ立って、江戸時代には武家屋敷があった界隈に店舗を構える書店まで20分ほど自転車を走らせた。

せっかくだから各々一冊づつ買っていこうとなったものの、そうなるとなかなかこれといった本が見つからない。店内をぐるぐる歩きまわり、小一時間も経ったころ、「創元SF文庫」の棚の前にいたうちの奥さんが「これにするわ」と言って手にしていたのは、レイ・ブラッドベリの自選短編集『万華鏡』だった。

「あー、いいのを選んでる。それまだ持っていなかったよな」と言って、ふと棚の方に目をやると、見覚えのあるタイトルが視界の端に引っかかった。なんと!『吸血鬼は夜恋をする』が同じ列の隅の方にあるではないか。

絶版になって久しい、伊藤典夫編訳による伝説の傑作SFアンソロジーだ。文庫化されていたなんて知らなかったぞ。こういう本に遭遇する可能性を秘めたところが、書店の面白さでもあるんだよな。

いそいそと向かったレジで、取り壊し後のことを尋ねたところ、うえで決めいていることなので下っ端の者にはわからない、とのことだった。また一つ、子供の頃から慣れ親しんだ場所が姿を消していく。仕様のないことだけれど。

「カバーはお付けしますか?」と聞かれて、思わず「かたじけない」と答えた。


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