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ペンドリーノにオカムラ

フィンランド
Niina and Tapio Finland 2004
Niina and Tapio Finland 2004

 私は、彼女が私の上に身を投げた時には、できるだけフーワリと優しく受けるように心掛けました。彼女が私の上で疲れた時分には、わからぬほどにソロソロと膝を動かして、彼女のからだの位置を変えるようにいたしました。そして、彼女が、ウトウトと居眠りをはじめるような場合には、私は、ごくごく幽かに膝をゆすって、揺籃の役目を勤めたことでございます。

江戸川乱歩「人間椅子」

フィンランドのVRにペンドリーノという列車がある。新幹線「のぞみ」のような高速鉄道だ。インターシティがエコノミークラスとするなら、ペンドリーノはやや上級のエグゼクティブなビジネスクラスといった雰囲気だ。

留学中に分不相応と思いつつも、空席の都合で乗車したことが何度かある。南欧のイタリア製だからか、フィンランドの冬の寒さに弱く、頻繁に運行ダイヤに遅延を生じさせていた。

そのペンドリーノとおそらく同系のETR500系の車両に、オカムラのシートが導入されていたらしい。

2012年にフィンランドを訪れた際の、ヘルシンキからタンペレの間でペンドリーノに揺られた2時間ほどの間、ぼくは自分の尻と背中をオカムラにゆだねていたのかもしれない、などと夢現の間で心が揺れる。

また、日本メーカーの製品がフィンランド人の大きな体を支えているのだとしたら、ちょっと嬉しくなって思わずほくそ笑む。

ところで、我が家には椅子が一脚ある。アメリカ人のデザイナー夫妻によるもので、妻が独身時代に買ったものだ。

ぼくは、たいていは昔ながらの文机で事足りている。とはいっても、デスクトップのパソコンはテーブルにあり、畳の上に正座し、机上に腕を伸ばして、トラックボールとキーボードを操作し、首をグイッと上方に向けてモニターを見上げるという姿勢になる。

グレン・グールドは、お父さんが作ってくれた座面高14インチと云われる異常に低い木製の椅子に腰掛け、猫背でピアノを弾いていた。それでも目線の位置はピアノの鍵盤より上にあった。

ぼくの場合は猫背を伸ばさない限り、目線はキーボードの盤面とほぼ水平の位置になる。腕や首がくたびれてくると妻の椅子を拝借するのだが、なんとなく尻の座りが悪く、再び畳上の座布団に舞い降りてしまう。

ETR500系に搭載されたであろうオカムラのLeopard[レオパード]というシリーズの椅子は、その価格もエグゼクティブクラスで、ぼくの経済が許す範囲を大きく超えているが、ありがたいことに同社にはエコノミークラスの椅子も用意されている。

次にフィンランドに行くことがあれば、座席のシートを確認するためにも、再びペンドリーノに揺られてみたいと思った。

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