進行性の失明ではないかと私は動転した、そしてそのかみ、十九世紀に至るまで、ナス科植物のベラドンナから抽出した目薬を、女性のオペラ歌手は舞台に上がる前、若い娘は求婚者に引きあわされる前に、網膜に二、三滴垂らしたものだという話をどこかで読んだことを思い出した。
W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』鈴木仁子 訳 白水社
W. G. Sebald, “Austerlitz” 2001
随分前に大学は出たけれど、目薬は手放せない。
勉強はすぐやめられたのに、本を読むことがやめられないからなのだろうか。
大学目薬をさしても、賢くなることはない。自分の身体で実証済みだ。逆に、もともと悪い頭がこれ以上悪くなることもなさそうなので安心している。
箱にある、メガネに髭面のおじさんは誰なのだろう。髭と頭髪の有無を除き、なんとなく、自分の顔がこのおじさんに似てきたような気がした。
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