アランは茫然とナイフをしまいこみ、くりかえしくりかえし、こう考えた。おれは感染した。おれは感染した。なんの病気だか知らないが、おれも感染した。もう家には帰れない。
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(ラクーナ・シェルドン)「ラセンウジバエ解決法」浅倉久志 訳(『星ぼしの荒野から』所収)ハヤカワ文庫SF
James Tiptree Jr. (Raccoona Sheldon), “The Screwfly Solution” (1977)
近所のスーパーマーケットの前で。
前頭筆頭のような、恰幅のいいおばちゃんとおばちゃんの立ち話が耳に入ってきた。
「……って言ったんだけどさー、腹立っちゃって。だって、そんなこと言われても、どうせ、家じゅうウヨウヨしているんでしょ、細菌……」
何の話か知らないけれど、いま流行っているアレのことなら、「細菌」ではなく「ウイルス」なのでは、と心の中で揚げ足を取った。
でも、どう違うの? ぼくの中の仮想おばちゃんが巻き返す。
細菌は生物だが、ウイルスは生物かどうかはっきりしない、とか。
だから何なの? 細菌だろうとウイルスだろうと、死ぬときは死ぬんだから。
まあ、それもそうだ。
徳俵に残っていたぼくの足は、あっさりと土俵を割った。
寄り切って、おばちゃんの勝ち。
やっぱり、おばちゃんは太っ腹だ。
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