2006年の6月、フィンランド南東部の湖水地方を訪れたときのこと。
友達数人と、湖の中程にある小さな島に、手こぎボートで乗り付けて、林を散策していたら、年代物の飛行機のような残骸に出くわした。散らばった金属の腐食の進みようから、かなりの年月が経っているように見えた。
「ドイツ軍の置き土産だよ」と、一緒だったヤンネさんが、こともなげに云った。
どういうことなのか理解できていない様子のぼくを見て、一緒にいた博物館学芸員のヨハンナさんが「これは、第二次世界大戦中に、ソ連軍によって撃墜されたドイツ軍の戦闘機なんです」と説明を加えてくれた。
60年以上前、この上空でドイツとソ連の戦闘機がしのぎを削っていたのか。思わず仰ぎ見た夏至の青空には、真っ白い雲がふわふわ浮かんでいるだけだった。
フィンランドの乾燥した気候のおかげか、過ぎた年月のわりに、金属の腐食が進んでいるようには見えなかった。それにしても、歴史的な物品がそのまま放置されているのは、フィンランド人が呑気だからなのか、あるいは、そんな風に考える自分がせせこましいのか?
そういえば、ドイツ人のパイロットはどうなったのだろう。捕虜になったのか、それとも……。確かそんなことを質問したはずだが、ヤンネさんたちが何と答えたのか覚えていない。
その島の場所もあやふやになってしまった。もう二度とあの島を訪れることはないだろう。もっと写真を撮っておけばよかった。
本当に、あれは何だったのだろう。
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