一八六五年の五月ごろになって、マルセイユは、近東でおこりつつあることのため急に不安の色につつまれてきた。到着する郵便物がことごとく紅海から凶報をもたらしたからである。メッカ市にコレラが猖獗をきわめているとのこと。何千となく巡礼者が死んだ。そのうち疫病は、スエズ、アレキサンドリアにおよび、コンスタンチノープルまで飛んできた。それはアジアのコレラであることをみな知っていた。船舶は港内隔離所に遠ざけられてあった。
マルセル・シュオッブ 「列車〇八一」青柳瑞穂 訳 (『怪奇小説傑作集4』所収)創元推理文庫
Marcel Schwob, “Le Train 081”
2003年の三月から四月にかけての1ヶ月間ほど、うちの奥さんと二人でフィンランドとスウェーデンを旅行していたときのこと。
フィンランドでのことだったか、あるいはスウェーデンだったか、ぼくがバスの中でくしゃみをしたら、乗客の刺すような視線がまわりのあちこちから一斉に降り注いだ。
というようなことがあったらしい。
ぼくはすっかり忘れていたのだが、最近の新型コロナウイルスのニュースを見ていて、うちの奥さんが思い出した。
そう言われてみれば、そんなことがあったような……。
ところで、あのときの乗客の視線は何だったのか?
といっても、ぼくはよく覚えていないのだけれど。
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