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犬がニコニコ笑っていた

日々
Vili in Jyväskylä 2005
Jyväskylä 2005

近所で柴犬が散歩していた。
飼い主の中年女性はうつむいてスマホをいじっている。

犬がこちらを見上げた。ニコニコ笑っている。
なんか嬉しい。
しっぽを振ってこっちにこようとする。
そばにいくとズボンに前足をかけてきて、上目遣いで「クーン、クーン」とないた。
そっと撫でると、その手をペロペロとなめてくる。
かなり嬉しい。

女性がスマホから目を離さずに、リードを少し引っ張って、
「よかったねー」と抑揚なく云った。

よかった。

──バリで、兄の知人がマッシュ食べて、すごい悲しい気持ちになってきたんですって。まわりの人が全員、自分を嫌っているような気がしてきた。

バッドトリップや。

──で、浜辺でひとり、しくしく泣いていた。そしたら、現地の人が隣に座り込んで、いろいろ慰めてくれるんですって。「あなたの目はきれいです、嫌われるわけない」とか言うて。

うんうん。

──なんていい人なんだろうって思って、目を拭いて、手を差し出したらね。

うん。

──犬やったんですて。

中島らも・いしいしんじ『その辺の問題』

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