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シベリウスの頭上を舞う鳳凰

日々

今年5月のゴールデンウィークに、家の近所で平面的鳳凰を見かけた。迷い猫のように途方に暮れている様子だった。知らん顔もできないので、日本の法律に従い、然るべき方面に届けた。

それから3ヶ月ほど経った8月初旬、所轄警察から、8月2日までに元の持ち主が現れなかった旨の連絡があった。どうやら鳳凰を一羽遺失しても気が付かないほど鷹揚な人物だったようだ。所定の手続きをして、鳳凰を引き取った。

ひょんなことから、懐に舞い込んだ鳳凰だが、先を急いでいる様子だった。あまり引き止めるわけにもいかず、早々にインターネットにリリースしてやると、縦76ミリ、横160ミリ、重さ1グラムほどの、国立印刷局製造による紙幣上に封印された表象から解き放たれ、あっと言う間に飛び去ってしまった。

するとかわりに熱帯雨林のほうからは、オスモ・ヴァンスカ指揮、ラハティ交響楽団によるシベリウス《交響曲全集》のCDボックス他が、手はず通り届けられたのだ。

ヴァンスカ&ラハティ響によるシベリウス交響曲の、中でも《第5番 変ホ長調 作品82》の寒々とした美しい響きは、ぼくの心の琴線に共鳴し、皮膚上には鳥肌をたたせ、エアコンの設定温度以下のひんやりした空気感を体感させてくれた。

第三楽章の後半、トランペットを模した鶴の声に、鳳凰の鳴き声を聴いたような気がした。1915年4月21日、シベリウスの頭上を翔んでいた16羽の白鳥の背後には、あの鳳凰も舞っていたのかもしれない。

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