ジェイムズ・ジョイスやヴァージニア・ウルフなどが得意とした、いわゆる「意識の流れもの」。ただし、話者は、カズオ・イシグロとは違う意味での「信頼できない語り手」である。
「でも、さっき食べたばかりじゃないですか」
清水義範「靄の中の終章」(『国語入試問題必勝法』所収)講談社文庫
子供に理を諭すような口調だった。
「な……、何だと」
「めんたいこの残りで、茶碗に六杯も食べたでしょう。忘れちゃったんですか」
ヒヤリと、胸の中を冷たいものが走った。
初夏のある一日に、徐々にアウト・オブ・フォーカスしていく私=沼田常雄(81才)の意識が流れ着く先は……。
「私は作中の人物である」にも通じる語り口が面白い。めんたいこご飯が食べたくなった。
「意識の流れもの」の初級編として読みやすい短篇小説。これを読んでおけば、もうヴァージニア・ウルフなんか恐くない。
コメント