顔にできたウイルス性のイボの治療のため、近所の皮フ科クリニックに週1回通っている。数年前に突然おでこに出現した小さなイボが、そのまま放置しておいたらプツプツと顔全体に広がってきてしまい、観念して2ヶ月ほど前からこのクリニックに通い始めている。
「本日は院長が体調不良のため、容態が安定していて、投薬のみでよろしい患者様がいらっしゃいましたら、お申し出下さい」
この前受診したとき、クリニックの受付にこんな意味の札が立ててあった。すいている時間帯なのに、いつもより混み合っていたのはそのためだった。
午前中の太陽の光が優しく気持ちのいい待合室で、爽やかなボサノバのBGM、順番を知らせる看護師さんのテキパキとしたよく通る声、診察室からの「イタイ、イタイ!」と叫ぶ小さな男の子のぐしゃぐしゃの泣き声を聞きながら、ぼんやりと自分の順番を待っていた。
院長先生はマスクをしていたが、いつもとあまり変わらない様子で、「だいぶきれいになりましたね。頬の大きなやつだけは僕が焼いておくね」といって、液体窒素でマイナス200度に冷却した極冷治療棒をサッと取り出し、頬のイボをジュウと焼いてくれた。
「膝の方はどうかな?」と聞かれて、僕は、「え?膝ですか。膝はなんともないです……」と答えると、「ああそうか、自分の字がきれいすぎて、「頬」と「膝」を読み間違えちゃった」と、院長先生が自分で書いたカルテ(ペリカンのスーベレーンにWATERMANのブルーブラックのインクで記される)を指差し頬を引きつらせて微笑んだ。かなり体調が悪いみたいだった。
クリニックでの処置とヨクイニン錠剤の処方でイボの方はだいぶ少なく、小さくなってきた。最初に受診した時「このイボは治療しなくちゃ治らないよ」と言われて、「そうか、でも治療すれば治るんだな」と思った。当たり前のことだけれど、それだけでなんとなく気持ちが明るくなった気がする。
この皮フ科クリニックは、名古屋の地下鉄茶屋ヶ坂駅のすぐ近くにある。何年ものあいだ、いつもこの前を歩いていたのに、まったく目に入っていなかった。なんでだろう? 子供の頃から病院や医者が大の苦手なので、無意識的に避けていて、盲点になっていたのかもしれない。院長さんも看護師さんたちもテキパキと明るく対応してくれる、気持ちのいいクリニックだ。もっと早く受診しておけばよかった。
追記:実は、この数ヶ月後に自転車で転んで、膝をひどく擦りむいてしまい、このクリニックで治療してもらうことになるのだが、「頬」と「膝」のように、見た目が似ている漢字をうっかり読み間違えたりする感覚には、折口信夫の言う「類化性能」の感覚、が働いているような気がする。うっかり間違えをあなどってはいけないなと思った。
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