Kazuo Ishiguro

日々

十月の信頼できない海馬

マーティンは、秋がまたやってきたのを知った。犬が、秋の風と霜と、木の下で醸酵したリンゴの匂いをもって走りこんできたからだ。犬は、時計のゼンマイのようなその黒い毛のなかに、キリン草、夏の名残りのほこり、ドングリの殻、リスの毛、飛び去ったコマド...
フィンランド

古い記憶がよみがえる、A Village After Dark / Kazuo Ishiguro

Helsinki 2005生まれつき三半規管の出来が悪いのか、子供の頃から方向音痴なところがある。加えて、フィンランドでもよく道に迷ったのは緯度が名古屋より高く地磁気の感覚が微妙にズレていたから、なんてことも原因だったかも知れない。ヘルシン...
日々

夢見を誘うラヴ・ストーリー、カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』Kazuo Ishiguro: The Buried Giant

Öland, Sweden 2003 『わたしを離さないで』から十年ぶりの新作となる、カズオ・イシグロの小説『忘れられた巨人』を読んだ。アーサー王伝説時代のブリテン島を舞台に、老夫婦がおぼろげな記憶をたよりに息子を訪ねて旅をするという物語だ...
短篇小説

#002 カズオ・イシグロ「夕餉」、黄昏時のホラー

口の重い語り手、鎌倉の古い日本家屋。小津安二郎監督がラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の小説を映画にしたら、こんなふうになるのではないか。
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