PR

#039 ウディ・アレン「ミスター・ビッグ」、深遠な哲学ハードボイルド

短篇小説
Mr. Big by Woody Allen
Mr. Big by Woody Allen

サンフランシスコのダン・カーニー探偵事務所<DKA>では門前払になるであろう神学上の問題も、ニューヨークに事務所を構える〈おれ(=カイザー・ルーポウィッツ)〉は、引き受けることに吝かではない。

依頼主はロングヘアのブロンド娘。ショート・スカートをはき、ぴっちりしたスウェターを着た放物線の集合体なのだ。

“What can I do for you, sugar?”
“I want you to find someone for me.”
“Missing person? Have you tried the police?”
“Not exactly, Mr. Lupowitz.”
“Call me Kaiser, sugar. All right, so what’s the scam?”
“God.”
“God?”
“That’s right, God. The Creator, the Underlying Principle, the First Cause of Things, the All Encompassing. I want you to find Him for me.”

Woody Allen, “Mr. Big” (Getting Even, Random House, 1971)

「どういうことですか、お嬢さん?」
「ある人、というのかしら。さがしてほしいんです」
「失踪人? 警察のほうには?」
「事情が事情なものですから、ルーポウィッツさん」
「カイザーでよろしい。楽にして。わかりました。で、さがす相手というのは?」
「神なの」
「神?」
「そう、神なんです。万物の創造主、基本原理、第一原因、万有の存在。その《彼》をさがしてほしいの」

ウディ・アレン「ミスター・ビッグ」伊藤典夫 訳(『これでおあいこ―ウディ・アレン短篇集』CBS・ソニー出版)所収
Woody Allen, “Mr. Big” (Getting Even, Random House, 1971)

〈おれ〉は、地元のラビ、無神論者のヤクザらに《彼》の行方をあたるが、手がかりはつかめない。そうこうするうちに、神の死体がモルグに運びこまれる。神殺しの犯人はだれなのか? 動機は? 深まるかにみえた謎だが、意外な人物が犯人として浮上した。

深遠な哲学ハードボイルドのパロディ。元ネタの探偵は、フィリップ・マーロウ、サム・スペードやマイク・ハマー、あるいはそれらのごちゃ混ぜだろうか。

いずれにせよ、ウディ・アレンのタートの黒縁メガネを重ねて見てしまうのは、彼の映画の観過ぎたからかもしれない。

それにしても、最後の謎解きは何度読んでもちんぷんかんぷんだ。

じつぷり
じつぷり

佐伯泰樹訳もある。
『笑いの新大陸―アメリカ・ユーモア文学傑作選』(白水Uブックス)


コメント